南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
アフリカ大陸の旅から6年後。地球を、ぐるりと半周してチリ共和国、首都サンティアゴに到着。博物館の天文研究室での仕事柄、地球儀を思い浮かべながら、地球の「下」で逆さまに立っているイメージが拭いきれません。飛行機での空旅は好きですが、2日間ものシート座り疲れから地球半周分の距離を実感します。
聞き慣れないスペイン語の戸惑いを楽しみつつ、入国手続きを済ませた頃には、その疲れは解消されています。わずか2日間の空旅で季節が逆になりました。日本での冬のクリスマスから夏のクリスマスへ。宿に到着したのは真夜中。宿の前には教会が建っています。初めて経験する南半球でのクリスマス、飛行機内は寝て過ごしたため、さらに寝る必要はありません。カメラひとつ持って、Tシャツ姿でクリスマスの夜をひとり散策に出かけます。
クリスマスのミサが行われている雰囲気を見ようと教会の外でうろうろしている東洋人を見かけて、地元の方々が中に招いてくれました。ひそひそ声で丁寧にいろいろ教えてくれますが、スペイン語の語学力不足が悔やまれます。その意味を少しでも理解しようと、薄暗い教会の中、その表情に集中しますが意味がよく分かりません。しかし、皆さんとても親切な方々ということだけはその表情から伝わります。その最初のひとつの小さな出来事が南米大陸全体の印象となりました。
アコンカグア峰入山の前に、高所順応としてチリ共和国内のエル・プロモ峰(5,430m)登山へ向かいます。サンティアゴ滞在中は、昼食、夕食が各自フリーなので、メンバーから離れて街中をひとりで散策し、お気に入りの食堂を探します。自宅を改築したような、白塗りのかわいい食堂に出会えました。家族だけで営んでいるらしく、南米大陸の裏側から突然訪れた日本人に家族総出で何を食べたいかを親切に聞いてくれます。2回目に訪ねた時には、テーブルに辞書まで数冊用意されていました。苦笑いの表情で首を縦横にしか振れない私からのオーダーで出てくる肉料理の、とても美味しいこと。家族総出のおもてなし、登山を始める前から素敵な思い出がまたひとつ増えました。
小さな車に息苦しさを感じながらメンバー全員乗り込んで、エル・プロモ峰へ向かいます。荒れた峠道に乗り物酔いになるメンバーが続出。体調が回復するまで長い休憩時間となります。アンデス山脈は、ベネズエラ・ボリバル共和国、コロンビア共和国、エクアドル共和国、ペルー共和国、ボリビア多民族国、アルゼンチン共和国、そしてチリ共和国の7カ国にもまたがります。見渡している山脈は南北8,000km、東西800kmも続いていることに驚きます。青白い表情で苦しんでいるメンバーもいるため遠慮気味にアンデス山脈の眺望を楽しみます。