春を迎え、新緑がまばゆい季節。とはいえ山はまだまだ残雪のシーズン。
今回は、日本の山のなかでも人気の高い穂高エリアを、
東京をベースに活躍するフォトグラファー、マーティン・ホルトカンプさんと巡りました。

なだらかな稜線を登っていくと、西穂高のピークが見えて来ました。まず目指すのは、中央右に見える「西穂独標」。そこから先は残雪が多く難易度も高いルートになるため、登山客のほとんどは独標までのピストンとのこと。
- 稜線から左側を覗くと、峰々が姿を見せました。左から2番目、少し奥まったところにあるのが西穂高のピーク。西穂独標の上には人の姿が確認できます。「日本には8年いるけれど、こんな素敵な山々があったとは知らなかったよ。まるでヨーロッパアルプスのようだね。ちょっと緊張するよ(笑)」とマーティンさん。
- 上高地側の斜面は雪が多く残る一方、松本側は岩場が顔を覗かせていました。雪と岩のミックスで少し歩きづらいですが、ピッケルをストック代わりにしっかりと登っていきます。「独標までの最後のアプローチはロッククライミングだね! エキサイティングだよ」と興奮気味。登っていくにつれ、ダイナミックに変わっていく山の表情を楽しんでいる様子でした。
- 独標はもう間近。岩がちな登山道を軽快に登っていくと、賑やかな人の声が聞こえてきました。空気は冷たいのですが、風がほどんどなく快適。〈alpiniste 45+10〉のオレンジ(terra)が青空に映えます。 最後は急登。3点支持を使い、バランスを取りながらアプローチを楽しみます。
- 岩や木には、「エビのしっぽ」と呼ばれる霧氷が張りついています。「きれいな氷の結晶。不思議な模様だけど、夜はきっと風が強くて、すごく寒いんだろうね。美しいだけではなく、自然の厳しさも感じるよ」。

独標をクリアしたら、その先へと進んでいきます。まず直面したのが急な下り。どちらの斜面も滑落してしまえば、数百mは落ちてしまうほどの切り立った崖。幸い雪はしっかりと固まっているのでアイゼンがしっかりと効きますが、簡易ハーネスとロープで安全を確保しながら下降していきます。

小さなピークを登っては下り……。ピラミッドピークの直前は、まるで壁のように立ちはだかる急勾配。にアイゼンのつま先をしっかりと蹴り込み、ステップを作りながら登っていきます。まっ白な雪と深く澄み切った青空のコントラストが美しい世界を演出していました。
- 西穂山荘を出てから約3時間。ようやくピラミッドピークまで到達! 安全を確保しながら進んでいくため、予想よりも時間がかかってしまいました。太陽がゆっくりと傾きはじめてきたので今日はここまで。残念ですが、山荘までの戻りの時間も考慮して折り返すことに。
- 斜面に残る雪ですが、実は左側は雪庇(せっぴ)。トレースがあるところよりも左は、雪が風により出っ張っているだけなので、もし踏み抜いてしまえば滑落の危険は大。慎重に、一歩ずつ確かめるように登っていくマーティンさんですが、どこまでも山々が広がる景色には感動しきり。リュックからカメラを取り出しては、シャッターを切っていました。さすがカメラマン!

西日が眩しく照らすなか、なだらかな斜面を滑るように下ります。夕暮れとともに気温は下がりはじめ、溶けて緩くなっていた雪もザクザクと音を立てるほど固まってきました。体力には自信があるというマーティンさんも、さすがに疲れた模様。
- 山荘に戻り、冷えた体を温めます。5月とはいえ外は氷点下。灯油ストーブのやさしい暖かさが身に沁みます。もちろんご褒美のビールも忘れずに! 西穂山荘は、このエリアでは珍しく通年営業の山小屋。300人ほどが宿泊できるそう。ちなみに、映画『岳』の撮影はこちらで行われたとのこと。食堂には当時の写真が飾られていました。
- 今回の山行で活躍してくれたのが、〈alpiniste 45+10〉。アルパインクライミングでの使用に特化した、フラッグシップモデルです。ハーネスを装着した際の腰回りのクリアランスや、ピッケルなどのアイス&スノーギアを収納できるストレージなど、クライミング時に活躍する機能をふんだんに盛り込んでいます。
- 朝、日の出前に起きて丸山まで足を伸ばしてみると、登山客のみなさんも集合。次第に明るさを増してくる空が織りなすグラデーションは、山々を幻想的に演出していました。「日本は島国だから、こんなに奥深い山域があるなんて自分のイメージにはなかったよ。夏になればまた違う景色が広がっているんだろうね。山小屋に泊まりながら縦走もしてみたいよ」と、朝焼けを眺めながら話してくれました。取材は5月半ばだったため、雪が多く残っていましたが、これからは緑溢れる夏山シーズン。新穂高ロープウェイからであればアクセスも容易。穂高山域が視界いっぱいに広がる絶景を堪能できます。とはいえ、危険箇所も少なくないエリアなので、安全には気をつけて素敵な山行を楽しんでください。
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Martin Holtkamp(マーティン・ホルトカンプ)
東京を拠点に活躍するドイツ人フォトグラファー。著名人のインタビューやポートレイト、ストリートカルチャーなど手がけるテーマはさまざま。
http://martinholtkamp.com/