karrimor mountain journal vol.6 二子山

今回の『mountain journal』は、北アルプス縦走(燕岳〜大天井岳)から2回目の登場となるマツが担当です!

どんな絶景を見に行こうか、いろいろと情報を集めていたところ、またもや先輩から「バリエーションルートで雪山八ヶ岳の絶景を見に行こう!あ、でもマツはアルパインの経験がないから、トレーニングとして今回はマルチピッチをやってみない?ビギナーにはよさそうなのは… 二子山かな」。ということで、今回は秩父の二子山・中央稜に決定! まずは下調べからスタート。

「バリエーションルート」とは、一般登山道ではないルートを登っていくこと。そして「マルチピッチ」とは、ロープ一本の長さでは登りきれない高さの岩壁を複数回(マルチ)に切って登るクライミングとのことなのだとか。両者ともロープなど様々な専用ギア類を使うため、クライミングの技術やロープワークはもちろん、それぞれのギアを使える技術も必要になってくることが判明…! 二子山の中央稜のマルチピッチクライミングで、一般的なハイキングやトレッキングとは違った山登り(クライミング)を経験しつつ最低限のロープワークやギア類の使い方を習得します。

ボルダリングの経験はあるものの、ロープを使ったクライミングは数回程度。ましてや、マルチピッチのように長時間岩に取付いてクライミングなんて未経験!今回も不安でいっぱい…。ただ、スリリングな山登りをしてみたかったし、また一つ山登りの技術が身に付けられる!そして何よりさらなる絶景を見に行きたい!と密かにテンションが上がるばかり。

そして、〈二子山〉について情報収集も開始。登山口〜中央稜取付きまでの道順や、山頂まで何ピッチなのか、また核心部はどのあたりなのか、などなど。踏み跡の少ない場所を進むことも多いため、アプローチまでのルートは確認しておきたいところ。

さらに天候次第ではかなり冷え込みそう。今回もウェアリングには悩まされるのでした。リュックは軽量さにこだわりつつ10Lとは思えない収納力と高いフィット感、激しいアクティビティに対応する安定感やコンプレッション機能が特徴のAR 10をセレクト。アウターには高い伸縮性、耐摩耗性のほか通気性、換気性、防水機能も併せ持った全天候型シェルジャケットboma NS jkt (unisex)を。防寒対策として軽量な生地に高い保温効果、コンパクトな収納力が特徴のvoyager down jktをインナーダウンに選びました。準備OK! 期待と不安が入り混じりながらいざ二子山へ。

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早朝に登山口近くの駐車場に到着。各々準備をはじめます。2人1組が2パーティーで二子山中央稜山頂を目指します。2パーティー分のギア類が並ぶとなかなかの迫力! これらを分担して携行していくわけですが、いざカラビナなどのギア類を身に付けていくとズシッと重みが身体に伝わります。いよいよはじまるんだな…と気持ちが引き締まります。

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アプローチから取付きへ。いくつか分岐がありましたが、そそり出る壁の迫力を横目に先を急ぎます。途中分岐を間違えてしまい、もと来た道を戻るというタイムロスをしてしまいましたが、なんとか取付きまで行くことができました。2パーティーほど自分たちよりも先に到着していて、すでに登る準備をしていました。

6_4先行パーティーが1ピッチ目を登りきったので、自分達の番。先に先輩が登り自分がビレイをします。先輩は難なく1ピッチ目を登りきり、いよいよ自分が登ります。計7ピッチにわたる長丁場のスタートです。
取付き場所が日陰でしかも登るまで1時間程度待ちがあったのですが、voyager down jktを中に着込んでいたおかげで、身体の冷えもなく登りはじめられました。ただ、日の当たっていない岩は氷のように冷たく長時間持っていられません…。幸い掴みやすい岩が多く慎重になりつつも時間をかけずに上を目指しました。マルチピッチでセカンドの場合、最初に登った先輩が上からビレイをします。そのため自分はトップロープの状態で登るので、さほど恐怖感も感じずグイグイ登っていけます。自分も1ピッチ目は難なく登ることができました。

6_51ピッチ目の終了点場所は日当たりのよいテラスで、岩で冷え切った手足を日に当てレストしながら後続のパーティを待ちました。その際テラスが安全な場所であっても終了点を支点に持っていたスリングでセルフを取ります。これをすることにより、万が一足を踏み外したとしても落下しないのです。
後続の先輩達も難なく1ピッチ目を登りきり、2ピッチ目に取り掛かりました。ザイルパートナーの先輩は2ピッチ目もマスターで難なく登りきり自分は1ピッチ目同様トップロープ状態で登りました。1ピッチ目もそうだったのですがセカンドで登る場合、先行で登った人がボルトに描けたヌンチャクや、クラック等に刺したカムを回収しながら上を目指します。カラビナやカムの扱いに慣れていない自分は回収も一苦労ですが、2ピッチ目も掴みやすい岩が多くなんとか登りきれました。ここの終了点は広いテラスではなく、足場が多少あるだけの日陰の壁に張り付くかたちで3ピッチ目の登攀を待ちました。この時もセルフをきちんと取ります。後続パーティーも難なく2ピッチ目を登りきり、いよいよ問題の3ピッチ目です。

6_6事前の情報ではこの3ピッチ目が全体通しての核心部といわれるところで、否応無しに緊張感が高まります。マルチピッチクライミングの場合途中で登れなくなった場合、自分1人が登れない=パートナーも諦めなければいけなくなってしまうので極力それは避けたい。と思えば思うほど見上げた先にある大きく割れたクラックがプレッシャーとなって立ちはだかって見えてしかたないのです。

そうこうしているうちに、先輩はすでに核心部に迫ろうとしています。ただ、明らかに今までと違い、かなり手こずっているのを下からビレイしていても感じました。ただクラックでの経験豊富な先輩はジャミング(クラックに手や足を突っ込んで体を安定させるテクニック)やレイバック(手は引いた状態、足は押した状態で身体を安定させるテクニック)を駆使して登っていきます。
セカンドで登れる自分はビレイしながらも自分が登る時のために先輩のムーブを頭に刷り込もうとするのですが、クラックの経験がほぼなく、とくにジャミングは一度もやったことがありません…意味は理解できるのですがどうやっていいのかと悩むばかり。先輩は核心部をなんとか越え、3ピッチ目を登りきりました。不安な気持ちで押し潰されそうな状態で自分が登る番となりました。

とにかく冷静さを失わないよう、下から後続の先輩たちからのアドバイスももらいながら核心部手前のクラックに取り付き、レイバックで身体を徐々に上げていきます。
いよいよ核心部と思われるところに差し掛かると手も足も悪く、ただそこに張り付いているのが精一杯の状態に。徐々に冷静さも失うと、何をしても悪循環な状況に陥るのでした。闇雲にクラックに手を突っ込むのですが全く持って身体を安定状態に保てず、目の前の岩壁を手当たり次第掴もうと手を出すのですが、どこも掛かりが悪く腕の張りも一気に襲いかかり、自身の身体を保持できなくなり、上でビレイする先輩にテンションをかけてもらいました。
全体重をロープに預け、息を整え気持ちを切り替えて冷静に手のかかりそうなところ、足が踏めそうなところを探したのですが、一向に見つけ出せず…。仕方なくA0と言われる打ち込まれたボルトを踏んでなんとか核心部を抜け出しました。その後も難所がつづきましたが、岩壁に身体を擦り付けながら我武者らに核心の3ピッチ目を乗り切りました。

6_73ピッチ目の終了点は大テラスになっており、セルフを確保しなくてもよいほどの空間が広がっていました。全てを出し切るほど筋力を使い果したのと、恐怖心から解放された安堵感とA0した悔しさが入り混じり、しばらくは放心状態…。
上がった息も落ち着いてきたころ、辺りを見渡せば登りはじめのときは見上げていたローソク岩が眼下に。普通の登山では味わえない時間で高度感が上がる感覚を味わえました。後続の先輩2人も手こずった感はあるものの無事登り終え、暫しレストをしました。自分以外の先輩3人は手の甲が擦れていたので、なぜか聞いてみたところ、ジャミングを効かせるとどうしても岩との摩擦で擦れてしまうとのこと。自分との大きな差はここにもあるのだなと痛感しました。

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4ピッチ目からは登る順番を逆にし先輩パーティが先行で登り、自分もセカンドではなくマスターとして登ることに。ルートのグレードはグッと下がり手も足も非常によく、ヌンチャクやカムを扱うには絶好の機会となりました。

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各終了点に到達しセルフを確保したら次はセカンドビレイと言われる、セカンドの先輩を上からビレイします。とはいえはじめての経験だったので先行パーティの先輩に手伝ってもらいながらロープを回収。これが想像以上の力作業で、平気な顔をしてこれをこなす先輩方に改めて驚きと感謝の念を抱きました。

6_10この日は天気も安定していて身体も動かし続けていたので途中からインナーで着用していたvoyager down jktは脱ぎました。コンパクトにスタッフバッグに収納でき、軽さも保温性も十分なので荷物が限られるアクティブシーンにはかなり重宝するのでオススメです!

6_11_26、7ピッチ目も無事登り、ようやく二子山中央稜登頂です! はじめてのマルチピッチだったこともあり、思わず嬉しさのあまりガッツポーズしてしまいました(笑) 自らの足で登っていくハイキングやトレッキングとは違い、手足含め身体全体を使って登るマルチピッチクライミング。今まで味わったことのない達成感です。

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セカンドの先輩も登りきり4名全員無事登頂です。暫し談笑しながらギア類の片付けに入ります。ふと空を見るとなにやら雲行きが怪しくなっていることに気付き下山を急ぐのですが、この後の険しい下山道を予兆するものだったのかもしれません。

事前の情報では一般道のあるところまで下って下山する情報を得ていたのですが、早めに下山したかったので予定していなかった「上級下山コース」を選択。今思えば第2の核心部の入り口でした(笑)

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「上級下山コース」に入った直後から切り立った岩が、体感では垂直に近い角度で続くところを下っていきます。今まで登ってきたような岩壁をロープなしで下るのはかなりの恐怖を感じました。
ある程度下ればこの恐怖の岩も終わるのかと思いきや、下れども下れども続いたため結局懸垂下降で下ることに…。もちろん自分は懸垂下降の経験がなかったので、その場で先輩からレクチャーを受けて降りました。降りる直前のロープに全体重を預けるべく身体を谷側へ投げ出す瞬間の感じは今でも思い出すと手が汗ばみます(笑)
先輩からのレクチャー通りにロープを扱いながらも、慣れていないのと怖さから左右に振られながらなんとか平地部分まで降りることができました。

6_16残りの下山道はアプローチで通った道と合流し無事登山口へ帰還。まさかの下山まで全く気が抜けず、予定外の懸垂下降も経験できた、はじめてづくしのマルチピッチクライミングでしたが、今回も道具に助けれた場面が多々ありました。
登りも下りも岩に擦れるシーンが多くあったのですがboma NS jkt (unisex)の磨耗性の強さから生地が傷つく事はありませんでした。また衣服内は常に快適でこれは〈Neoshell®〉特有の透湿性によるものなのだと実感。
クライミング中も下山中も身体が大きく振られる場面があったのですがAR 10のフィット感は素晴らしく、いかなる体勢でも身体への密着度合いは落ちませんでした。これがリュックサック共々身体から離れるようなことがあると、体力の消耗もそうですが最悪落下の危険も伴うため、この密着度合いは重要な機能です。さらに言うとこれだけ背中と密着していながらもベタつきがなかったのは本体背面の素材(スーパークールメッシュ)によるもので常に快適な背負い心地を提供してくれました。
今回の経験からまた一つ新たな山の楽しみ方が増えたと実感しています。ただ、マルチピッチクライミングの場合クライミング技術以外に様々なギア類を揃えて携行し、尚且つ適宜ロープワークやギア類の扱いなど危険を伴うからこそ安全を確保するための技術やテクニックが発生するので、その場その場で適切な判断が求められます。これからも、もっと経験を積んで習得しなければ!と思いました。
さて、次回のマツは当初の予定通りバリエーションルートで絶景を見に行くことが出来るのでしょうか!? 次回をお楽しみに!

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【ギア紹介】


●リュックサック(AR 10):軽量さにこだわりつつも、収納性及びコンプレッション機能による安定性、ヒップベルトやショルダーハーネスによるフィット感は抜群。
●アウター(boma NS jkt(unisex)):通気性、換気性、伸縮性と、防水機能、耐摩耗性も組み合わせた全天候型のフラッグシップモデル。
●ダウン(voyager down jkt):軽くて保温性抜群、今回はインナーとして着用。コンパクトに収納出来る点も◎
●パンツ(arete pants):防風性・摩耗性、透湿性に優れ、更に高い伸縮性も持ち合わせたソフトシェルパンツ。
●帽子(PS beanie):保温性、フィット感が高くヘルメットとの相性も◎
●ネックウォーマー(PS neckwarmer):保温性、フィット感が高く冷気の侵入を軽減。
●グローブ(trek glove):強度の高い仕様のアウトドア用グローブ。主にアプローチとビレイ時に使用。

●クライミングシューズ ●ヘルメット ●ハーネス ●チョークバッグ ●ATC ●カラビナ3ヶ ●スリングテープ2本 ●デイジーチェーン1本 ●ダブルロープ(60m)

●アプローチシューズ:トレラン用のシューズを取付きまでのアプローチと下山道で使用。●行動食(ゼリー、バー等)、水1L


※ヌンチャクやカムなどの不足しているクライミングギアは先輩クライマーからレンタル


matu

マツ

性別:男性
登山歴:低山に10回程度
趣味:ボルダリング・スノーボード・ランニング・旅行

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