オフロードの道を長らく旅していると、アスファルトの上を走ったときの滑らかな漕ぎ具合が恋しくなるものですが、ほとんどの道が綺麗に舗装されている日本では、オフロードのラフさがたまらなく恋しくなり、気付けば未舗装の道を探している自分たちがいます。そんな私たちに道中出会った方が教えてくれたスポットは、日高山脈の南部に位置する楽古岳登山口への道でした。
主要道路を外れて林道へ入ると、私たちが探し求めていたオフロードがそこにはありました。車通りはまったくありませんが、道はとても砂利道ながらきちんと整備されてあります。目の前にそびえる山らしいピラミッド形をした楽古岳を目がけて、雲ひとつない青空の下、自転車を漕いで行きます。
傾斜のあるオフロードの登り坂で、自転車を押して歩く感覚も久しぶりです。さらに道が狭くなっていったところでは、砂利の色に混じって一匹のヘビが私たちをお出迎えしてくれました。見れば見るほど魅惑の生き物を、しばし観察。
今回、この林道に寄り道した理由は、オフロードサイクリングを楽しむことの他に、道の突き当たりにある楽古山荘へ行くことが目的でした。テント生活が板についた今でも、たまにはテントを広げたり閉まったりする作業をサボって屋根と壁のある空間で寝たい。そんな希望を叶えてくれるひとつの場所が、無人の山小屋です。
10km弱のオフロードを走行し、橋を渡った先に立派な二階建ての山荘を発見!これだけ綺麗に管理されている無人山荘を自由に使える北海道、やはり素晴らしいです。
元々はここで一泊して、翌日また自転車で引き返すつもりだったのですが、道中顔を覗かせていた楽古岳に登ってみたいという気持ちがむくむくと芽生え、食料もあと1日分の余裕がまだあるということで、翌日は日帰りで楽古岳へ登ってみることにしました。
オフロードサイクリング以上に久しぶりな登山。最後にトレッキングをしたのは、二年前のスロベニアでしょうか。自転車で世界の峠をいくつも越えてきたものの、自転車と共に生活をしていると登山をする機会が極端に減ってしまうのが難点なところ。なので、少しハイキングするだけで筋肉痛になったり、足が痛くなったりする自分の歩く力の弱さに驚くことがあります。
楽古山荘の目の前から登山道がスタートする南側ルートは、計6箇所ほどの沢渡りがあります。雨がたくさん降ったあとは、靴を脱いで渡らなければならない箇所もあるようなのですが、私たちが訪れたときはすべての沢をジャンプで乗り切れるほどの水量。にもかかわらず、初っ端の渡渉で誤って川に足がすっぽり落ちてしまい、私の靴下とシューズはぐっしょり濡れた状態でのスタートとなりました。
今回の日帰り登山のお供は、毎夏群馬県から北海道の山を登りに訪れているというショウジさん。今朝、私たちが登山の荷物をまとめていたところナイスタイミングで到着し、自然な流れで一緒に山を登ることになりました。バックグランドや年齢など関係なく、その時出会った人といい時間を共有してこそ、旅は充実します。本日の楽古岳訪問者は、私たち3人のようです。
初めの1時間半ほどは傾斜をほとんど感じない沢沿いのトレイルが続き、その後方向を変えると800m標高が上がる急勾配の登り坂が待っています。気づけばトレイルは背丈ほどある笹で覆われ、このトレイルの訪問者の少なさを感じました。
長い笹被りを抜けると一気に視界が開き、周囲の日高の山々が姿を現しました。深い緑色の山には、滝のように雲が絶えず流れ、しばらくその情感のある風景にうっとり。
ここまでくれば、頂上まであともう少しです。濃い霞のなかに浮かび上がった尾根は、頂上への道筋を私たちに照らし示しているようで、視界が悪いからこその幻想的な光景が広がっていました。
これまで私たちにとって登山やサイクリングは、常に一方通行のことが多く、峠の先にある村や場所へ向かうための行程の一部となっていました。しかし今回、「山の頂上」を目指して歩くことで、その山単体としての美しさや、サイクリングとはまったく違う視点での自然の見え方を改めて堪能することができました。
今回使ったアイテム
リュックサック:SABRE 30、帽子:ventilation cap ST +d、シャツ:delta L/S、パンツ:journey summer pants