本編の自転車旅のストーリーを始める前に、南アフリカ在住中にトリコとなった、野趣溢れる南アフリカの自然でのトレッキングについてもう少しお伝えしたい!ということで、今月は南アフリカのローカルトレッキングスポットをいくつかご紹介したいと思います。
木曜日、仕事が終わるとまず一番にすること。それは週末のトレッキングトリップへ向けての買い出しとパッキングです。特にお気に入りのショートトリップの行き先であるセダルバーグへは、ケープタウンの自宅から車で約3時間。ケープタウンを出るとサービスエリアが1つある以外は、約220km間にお店も何もないため、すべての準備をケープタウン市内で済ませておく必要があります。
そして待ちに待った金曜日。仕事を終えると同時に、キャンプ用品と食料で重量を増した車を走らせ、いざセダルバーグへ! セダルバーグ自然保護区への入り口には大きな川があり、近道である橋は頻繁に水没するため、渡れるかどうかは行ってみるまで分かりません。この日は私たちの小さな四駆車で渡れる水の深さではなく、やむを得ずオフロードをさらに奥へ走らせることとなりました。
ひと晩目は、セダルバーグに来たときは毎度お世話になるお馴染みの山小屋で就寝します。建物の半分が岩と一体化したこの山小屋は、ただ雨風が凌げるだけのとても簡易的な造りですが、ここで出会った仲間は数知れず、スカンクの赤ちゃんやフクロウが訪ねてくることもしばしば。
簡単なパスタと南アフリカ産の安価な赤ワインを友人と空け、山小屋でぐっすりと眠った翌朝、清々しい気持ちでセダルバーグの広大な大地へと歩き出します。
サンドストーンで形成されているセダルバーグ山脈の歴史は非常に古く、雨風によって山が少しずつ削られ、まるで山の頂上がぽろぽろと崩れ落ちたかのように岩がごろごろと一面に広がる様子は、幾万年もの長い歳月を感じさせます。
そのせいか、初めて訪れたときから何だか懐旧的な落ち着いた気持ちにさせてくれるのが、セダルバーグの不思議な魅力です。
また、登山者がめったにおらず孤立した感覚を味わえるこの場所では、人より動植物の気配の方が圧倒的に強く、実際にありとあらゆる野生動物や見たことのないような植物に出会うことができます。
直立すれば私の背丈ほどある、筋肉質なバブーンと呼ばれるヒヒ、色とりどりのトカゲ、鹿、ハリネズミ、モルモット…。夏場は雨がほとんど降らないため、とても乾燥した気候の西ケープ州ですが、それでも豊かな原生植物や水源があるため、多くの動物たちがここに生息しているのも納得がいきます。
ただ楽しみながら歩いているだけで、新たな発見とありのままの自然を体感できるセダルバーグ。訪ねれば訪ねるだけ好きになる、そんな場所は世界中を探してもあまりないように思います。週末のほんの短い時間だけなのに、まるで別世界に辿り着いたような感覚になるセダルバーグでの土曜日の夕暮れは、まさに心が洗われるひと時なのでした。