旅をしながら現地の人と関われば関わるほど、その国のいいところが見えてくる一方で、その国の問題点も少しずつ浮き彫りになってきます。マラウィの旅は、私たちにとって非常に挑戦的な旅でした。それは体力の挑戦ではなく、精神の挑戦です。マラウィの人は英語を堪能に話すことができるため、誰にでも感じた疑問を投げかけ、彼らのリアルな現状を知ることができました。そのなかで私たちが特に関心を抱いた今のマラウィの問題点について、今回は皆さんにお話したいと思います。

人口の約90%が農村部に暮らし、その大半の人が今も自給自足に近い生活をしているマラウィ。農業や自然肥料に興味がある私たちは、道中作物を育てている人と出会っては自転車を止め、色々なことを尋ねました。そこから分かってきたことは、近年マラウィでは化学肥料の助成金が出るようになり、多くの人が化学肥料を使い始めたこと。しかし地域によっては、その助成金が大幅に軽減されてしまい、自分で買うには費用が高すぎる化学肥料を継続して買うことができなくなってしまったこと。そして化学肥料なしの農業に再び戻った結果、作物の収穫量が激減してしまったこと…。このような負のループに陥っているしまっている人が、マラウィのあちこちにいたのです。

私たちの暮らしのなかでは、もし自分の畑の作物が上手く育たなくとも、近隣のスーパーに頼って食べていくことができます。ですが1日働いても100円に満たない低収入のマラウィでは、自分の作物が育たないことは死活問題です。その状況を目の当たりにして心苦しくなった私たちは少しでも何かできることはないかと考え、興味を示した農家の人々に、身の回りのものでコストをかけずに自作できるコンポストの作り方を伝えて回りました。

コンポストの話をした人々は、その場では関心を示し、感謝の言葉を伝えてくれたのですが、現実的には短期間で成果を出せることなどほとんど何もないことをよく理解していました。たとえ熱意があったとしても、残念ながら一方通行では意味がないのです。私たちは結局黙って見過ごすことしかできないのか…と自分の無力を感じていた頃、Naniという名前の1人の青年と出会いました。

エリオットの両親の知り合いが、マラウィ中部で孤児院を経営しているとの情報を以前から聞いており、ちょうどその地域へ行くのなら寄ってみるといいよと言われていました。その話をふと思い出し、そういえばたしかこの辺りだよなと思いながら自転車を漕いでいると、あっさりその孤児院を見つけることができました。

せっかくなので立ち寄ってみると、孤児院を任されているという地元の青年であるNaniが、丁寧に施設内を案内してくれました。とても落ち着きのある彼は、アフリカ人ではめずらしい読書家で、色々な話をするなかでコンポストの話をすると、とても強い興味を示してくれました。そして、ここに数日間滞在して、実際にどうやって作るかきちんと教えてくれないか?と提案してくれたのです。

翌日、早速孤児院で働く地元スタッフに化学肥料やコンポストの話をし、その後は孤児院周辺でコンポストの材料をどこで得られるか見に行きました。よくよく聞いてみると、Naniは以前からコンポストに興味があって、孤児院のオーナーに敷地内でそれを出来ないかと尋ねたようなのですが残念ながら承諾はしてもらえず、ここでできなければ自宅の庭でやってみるよ!ととても前向きに話していました。

孤児院には、赤ちゃんから10代の子供たちの約30人が生活しており、Nani自身も幼少期に母親を亡くしています。アフリカでは、若いうちに親や兄弟を失った話をしばしば耳にし、“死”との距離が私たちの社会よりも幾分か近いように感じます。孤児院のグラウンドでのんびりしていると、何を思ったか1人の男の子が遠くから全速力でエリオットの胸に飛び込んできて、しばらくの間離れようとしませんでした。誰にだって、人のぬくもりや愛は不可欠なのです。

Naniとは今でもたまに連絡を取り合い、お互いの近況を伝え合う仲です。情熱を持った彼との出会いは、私たちに希望を与えてくれました。マラウィのこれからは彼のような人によって変化していくのだと信じています。