南アフリカの自宅から出発し、自転車でイギリスを目指そうと決めてから半年後。私たちは計画どおりアパートの荷物を一式まとめて、必要な装備を出発ぎりぎりにパッキングし、自宅のドアから旅をスタートしました。
記念すべき第1カ国目の南アフリカは、決して初心者向けのラクな旅路ではありませんでした。ケープタウンから北西の海岸沿いは年中のただならぬ強風で有名で、物凄い横風にハンドルを取られて横転しないよう必死になり、あえて選んだセダルバーグ山脈の非常に荒いオフロードでは何度も派手に転倒してしまいました。
それから北ケープ州に入り、気候や風景がより一層乾燥していくのを感じると同時に、町と町の間隔が50、60、70km…とどんどん広がっていきます。そのため、その日のうちに次の街へ到着するよう、夜明けから夕暮れまで丸一日自転車を漕ぐ必要がありました。
今となっては、たいがいどこでも野宿できるし、どういった場所にテントを張れば適切かも理解しているつもりですが、旅の当初はどうしても恐怖心が拭えずにいました。激しい格差社会の影響から、外の世界への恐怖心が一段と強いケープタウンで暮らすなかで、私たちの警戒心も必要以上に高くなっていたのです。
しかし実際は、治安が悪いと評判の南アフリカでも、旅中危険な目に遭うことは一度もありませんでした。むしろ逆に、出会った人はみんないい人ばかりで、そんな小心者の私たちを嘲笑うかのように、だだっ広い大地が行く日も私たちの前に広がっていました。
時間をかけて、この世界を自分自身の目で見てみる価値があります。南アフリカはすでにそう私たちに語りかけてくれているようでした。旅の先は、まだまだ長い。