何日もじめじめと雨が降り続いたかと思えば、蒸し暑い猛暑日が続いたり、勢力が衰えないままの台風がやってくるなど、北海道らしからぬ夏の天気に振り回された今回の北海道。特に自転車の旅では、1日のほとんどを野外で過ごすため、行動が天候によって大きく左右されます。雨天でのサイクリングの後、びしょ濡れになったウェアと装備のまま野営する日が続くと、さすがに気が萎えることもしばしば。しかしそんな最中、まるで追い討ちをかけるように、北海道胆振東部地震は真夜中に起こりました。
私たちがその時滞在していた道東に大きな被害はなかったものの、数日間の停電と1週間近く続いた食べ物の品薄状態は、普段の日本では見慣れない異様な光景でした。ですが、こんな時だからこそ周囲の人たちとの繋がりを強く意識できたり、電灯のない漆黒の街でいつもよりきらめく星を見上げる人が多かったのが、とても印象的でした。
いくら相手が私たちの手に負えない自然だとは言えど、何事も計画通りにいかない日々が1ヶ月も続くとなると、フラストレーションが溜まってきます。またそのような時は決まって、旅をする“真意”とも向き合わずにはいられなくなるのです。
北へ向かうか、東へ向かうか、はたまた南か。目的地のないフリープランの旅は、時に私たちを惑わせます。しかし時が経てば、その戸惑いもすっきり消え去る瞬間が来ることを過去の長い旅から学んだはずなのですが、それでも気持ちのアップダウンは絶えることがありません。この行き当たりばったりすぎる旅の流れに終止符を打ってくれたのが、新鮮なイクラ…ではなく、初めて訪れた知床半島でした。
雨で長く足止めをしたおかげで日程が押していたものの、久しぶりの晴れマークを天気予報で確認したため、思い切って知床まで足を伸ばすことにしました。そして半島らしい海沿いの細い道へ入ると、スイス人夫婦と韓国人男性の自転車旅人と出くわし、早速旅の仲間が出来たことに心が踊っていると、向かったキャンプサイトでは釣りから戻ってきた地元の方から、60cmはある立派な鱒を1匹、夕食に頂きました。こういったタイミングでの人との出会いは、いつだって私たちの気分を一変させてくれます。
ウトロの町に着いても雨はまだ降り止まず、また仲間との時間が名残惜しかったこともあり、結局キャンプサイトでゆっくりと2泊した後、ついに待ちに待った快晴が訪れました。まさに、サイクリング日和です。知床峠へ向かって自転車を漕ぎ出すとすぐに、左手に雄大な羅臼岳が見えてきました。
すでに北海道で数々の峠越えをしてきましたが、知床峠は別格の素晴らしさでした。ぐねぐねと大きくカーブしながら標高を上げていくと、水平線が見えてきました。バルカン半島のモンテネグロを彷彿させるような、壮大な景色です。
濃い緑の森は、ここに沢山の貴重な動植物が生息していることを想像させます。クマが多く生息している場所は、自然が豊かな証拠だということを聞いたことがありますが、まさにその通りだと感じました。これからも人間と動物がバランスを崩すことなく、共存してくれることを願うばかりです。
峠を越えると、海の向こうには北方領土の山のラインがくっきりと見えました。その存在はよく知ってはいるものの、実際目にしてみると感覚的に何かが変わります。ただ間接的に聞いたり見たりすることと、自分の目で見て体感することは、いつもまったく別ものだと思うのです。
標高738m分の下り坂は、冷たい風の肌寒さを感じさせないほど爽快そのものでした。この知床半島での短い3日間は、それまでのじめじめした気持ちを吹き飛ばし、また前へ進む活力と旅をする“真意”について語りかけてくれたようです。
今回使ったアイテム
リュックサック:SABRE 30、ジャケット:beaufort 3L jkt