元々、通学通勤でママチャリを漕ぐ以外自転車に乗ることがなかった、マウンテンバイク超初心者の私にとって、旅を出発してわずか1ヶ月後に私たちの前に立ちはだかった1000kmにも及ぶ未舗装の砂漠道は、私の想像をはるかに超える過酷さでした。しかしだからといって、毎日がツラかったというわけではありません。砂漠の道のコンディションや天候により、その過酷さにも天と地の差があったのです。
アスファルトの道を走るときは前方に障害物がなければ、誰でも直線を沿うようにまっすぐに走ると思います。ですが砂漠の道だと、道の表面を平らにするモーターグレーダーが道を整備した直後でない限りそうはいきません。
道の両サイドには大きめの石がごろごろと転がっていることが多く、部分的に砂が深い箇所と浅い箇所があります。そのため、もっとも砂利が細かく砂が浅い部分を見極めながら、蛇行して走行していくことになります。1日に車が横切る回数は数えるほどしかないので、好きなだけ自由に蛇行運転ができるのは、荒い道の長所だとも言えます。
はじめはこの蛇行運転走法に慣れず、たまに砂にハンドル取られて滑ってしまうことがあったものの、慣れれば軽快に進むことができます。しかし本当に厄介なのは、まともに漕げないひどい凸凹道、さらにはペダルを踏むことさえままならない道でした。
50km先にあるキャンプサイトと小さな売店を目指していたある日。砂漠では水が補給できる場所が限られているため80km近く漕ぐこともあったのですが、この時は50kmという数字を甘くみて朝ゆっくり出発をしました。
けれども30kmを越えたあたりから、道の砂がどんどん深くなり、ついには10cmほどの砂の深さにタイヤが完全に埋まってしまいました。そうなれば、あとは自転車を押して進むことしかできないのですが、それがまた一苦労。フル装備の自転車のずっしりとした重量でまっすぐ押すにも押せず、ずるずると砂に足とタイヤを奪われていまいます。
日陰のかけらもない炎天下のなか、自転車を汗だくで押すこと3時間。やっとの思いで進めた距離は、驚くことにたったの5kmでした。その日の食料と水をもう余分に持っていなかったため、太陽の傾きと共に焦りが増していきます。
体力も精神的にも限界に近づいたとき、何とか日没寸前にキャンプサイトへ到着しました。4、5日ぶりに浴びたこの晩のシャワーは、砂まみれになった全身と、私の追い詰められた感情をすっきりと洗い流してくれたのをよく覚えています。
道のコンディションが悪いこと以外に自転車を押さなければいけない状況を強いられるのが、急勾配の坂道です。平坦な道がほとんどの砂漠にも、数少ないながら峠はあります。Spreetshoogte峠はそのひとつで、勾配が22%というかなり急な坂道なのですが、数年前に部分的にアスファルトが敷かれたようです。未舗装だった頃は、途中で車がエンストするのは日常茶飯事で、軽い雨が降れば登るのは不可能だったと地元の人は言います。
その登り坂は笑ってしまうほど急勾配で、私とエリオットは坂道のほとんどを押して登ったのですが、そのとき一緒にいた自転車旅を3年しているアルゼンチン人の男性は、すべて自転車を漕いで登り切っていました。「信じられない!」と私が言うと「君たちも時間が経てば登れるようになるよ」と彼は言いました。私はさておき、確かに今ではエリオットはアスファルトであればどんな急勾配でも漕いで登ることが出来ます。脚力の進化はすごいものですね。
頂上に到着すると、普段の果てしなく平面が続く光景とはまったく違った景色がそこには広がっていました。一言に「砂漠」と言いますが、オレンジっぽい部分や黄色、ピンクや赤っぽい部分があり、素晴らしい砂の色の変化にしばらく見惚れていました。
未舗装の道は、大概がアスファルトの道よりも体力を使い、時には苦痛に感じるほどツラいときもあります。しかし、長い期間未舗装の道をあくせくと旅したあとアスファルトの道へ到着すると、はじめはそのスムーズさにとてつもない感動を覚えますが、すぐにどことなく寂しさを感じるのです。自転車を伝って感じる砂利の感触、巻き上げる砂埃、辺りの風景と一体化した荒い道は、どうしても私たちの冒険心を駆り立てるようです。
今回使ったアイテム
リュックサック:tatra 20、パンツ:journey summer pants