北海道、青森、岩手、と紅葉の移り変わりと共に南下し、仙台に到着した11月半ば。木々に彩りを添えていた葉は地面に落ち、すっかり冬の訪れを感じます。週末は仙台でお世話になった友人おすすめのスポット、仙台市西部にある奥新川ラインへデイハイクに出掛けました。
夏場は川遊びをする人々と虫たちの鳴き声で賑わうという奥新川渓谷ですが、もう肌寒い季節ということもあり私たち以外に訪問者はおらず、静まり返った森林の中で私たちの落ち葉を踏む足音だけが辺りに響いていました。
底まで透き通った川の水はかなりの冷たさにもかかわらず、あまりの美しさに思わずエリオットは川の中へダイブ! 一瞬の出来事だったのでその瞬間を写真に収めることはできませんでしたが、トレイルを独占できるこの時期のひっそりとした山歩きもいいものだなと改めて。
その後は仙台市から福島市へ。ここまで友人を訪ねることがメインとなっていた東北の旅でしたが、福島からはまた地図上で山道を選んでのテント旅の再開です。まず最初の通過ポイントは土湯峠。ぐねぐね道が始まる土湯温泉付近からは、とてもコンディションがいいものの車通りはまったくない旧道が峠の先まで続いています。
距離的に長くなったとしても、静かな道をのんびり走行できるのは最高です。それでこそ山道サイクリングの良さだと感じます。しかしそれから天候は徐々に悪くなり、次の行き先である会津若松市へは激しい雨のなかびしょ濡れで到着しました。
会津若松から栃木県へ続く道中から見える山は真っ白に染まり、いよいよ冬本番。数日降り続いた雨が雪に変わり、本格的な冬がついにやってきたようです。その晩は氷点下まで冷え込み、テント泊でもなかなかの寒さを感じるようになってきました。そしてその翌朝、私たちのいる道のぎりぎりまで雪が積もり出しており、もしかしたら雪のなかの走行になるかもしれない…そんな思いで山道を抜けていきます。
しかし、それから山をぐんぐん下って栃木県日光市の温泉街に着くと、辺りは一変。冬模様はすっかり消え去り、予想に反してまた紅葉の風景が戻ってきたのです。さほど標高が高いわけでもないにもかかわらず、近距離でこれほどまでに気候と景色が変化するものかと驚きました。思いがけず、私たちは一瞬の冬から逃げ切ったようです。
雪山が見えるキャンプから紅葉のなかのキャンプへと舞い戻ってきた私たちは、栃木県の無料キャンプ場で一晩を過ごし、翌朝ゆっくりと朝食を作っていると、地面が静かに揺れ動くのを感じました。
するとまもなく周囲の木も大きく揺れだし、木から葉っぱがひらひらと落ちていく様子を眺めていると、地面の動きが徐々に収まっていきました。それなりの震度の地震をテントのなかで感じたのはこれが初めてで、地震の揺れの“音”が物質的なものではなく、自然音だったのが印象的でした。
山を完全に下って平坦な茨城県に突入すると、辺りは別世界です。日中の気温は20℃近く上がり、まさか11月の終わりにTシャツ一枚で自転車を漕いでいるとは思ってもいませんでした。車とトラックがひっきりなしに走り続ける国道の路肩からは、薄く黄みがかった空気に包まれる大都会が見えてきました。
私にとって東京は、何度訪れても衝撃を受ける巨大な渦のような街です。世界中どこを旅しても思うことですが、同じ国だからといって北と南、都市と田舎では人の性質も風景も文化も雲泥の差があります。そのため、その国を語るにはあらゆる地域を時間をかけて体感する必要があり、むしろ“国”と一括りにする必要性さえないようにも感じます。
北海道から東京までの気ままな半年間の旅は冬の訪れと共に幕を閉じましたが、私たちが移動したのは日本列島のまだ中間地点。残りの日本探索は時期を見てまた再開予定です。まだ見ぬ土地で、どんな人と出会えるのか、どんな風景に出会えるのか。未知なる日本の旅は、まだまだ続きます。