自転車経験ゼロで南アフリカから旅をスタートした私たちにとって、南アフリカからイギリスというとてつもなく長い道のりを自転車で旅する精神力がどんなものかを知る由もなく、始めたら何とかなるだろうと思いつつ、すでに3ヶ月半が経ちました。ザンビアへ入り、ようやくその“精神力”を理解しつつあったのですが、ザンビア人の親切さに甘えてしまい、ヒッチハイクが癖になってしまっていた私たち。ヒッチハイクの良さはもちろんありますが、やはり自転車のスピードでないと感じられない人柄や国柄というものもあります。
当時、ザンビアでは状態の悪くなった国道を補修する大規模な工事が行われており、道中ひどい砂埃が舞う中でのサイクリングはとても楽しいとは思えず、それがヒッチハイクをしてしまいたい気持ちを駆り立てていました。
しかし、マラウィの国境に近くなるにつれ工事車両はなくなり、道の真ん中を自転車で走っていても問題がないほど、車通りが少なくなっていました。そうとなれば、自転車を漕がない理由はありません。ちなみにアフリカでは、首都周辺や国の中心部の道がしっかり整備されていても、国境近くの道はほったらかしにされていることがよくあります。アフリカ人、本当に分かりやすいです。
それから間もなく、気づけば辺りは歩行者天国となり、路上には大きな荷物を担いで歩くか自転車を漕いでる人でいっぱいになりました。こういった道では、質の悪いタイヤがパンクして道をとぼとぼ歩いているサイクリストに出くわすことが常で、エリオットがいつもどおりパンク修理キットで修理していました。もしかすると、私とエリオットが旅中にパンクした回数よりも、路上でパンクを修理してあげた回数の方が多いかも?それほど、時に質が物を言います。
国境手前の最後のザンビアの町を通り過ぎると、道は本格的に赤土のダートになってきました。皆で登れば怖くない!と言わんばかりに、緩やかな登り坂を荷物をたくさん積んだ男性たちが自転車で登っていきます。
私たちもゆっくりと着実に進み、暑さにやられないよう水分を木陰でこまめに取っていると、一台の車が私たちの前で停車しました。なんだろうと思って見ていると、運転席から満面の笑みを浮かべた男性が降りてきて、私たちに向かって「Hello!!」と大きな声で叫びました。それに対し私たちも返事をすると、彼は満足したように車で去っていきました。ただただ、私たちに挨拶をするために止まってくれたようです。
この赤土の道を走っている車はトラックか、この男性のように自転車をトランクに突き刺している車のどちらかで、彼は路上で力尽きたサイクリストを乗せるためのタクシードライバーだったのでした。それにしてもトランクがガンガン自転車に当たっても気にしないこの自転車の積み方、とってもワイルドです。
さらに先へ進むと、人一倍大きな荷物を自転車に積んでいるおじさんに出会いました。すべての重量が後方にかかり、ましてや中国製の非常に簡素な自転車でそれを運ぼうとするのだから、もちろんペダルを踏めるはずはありません。おじさんは全身の体重をかけて自転車を半歩ずつ押す重労働をしながらも、私たちを見つけるとすぐさま笑顔で声をかけてくれました。聞くと、その荷物の重さはなんと100kg越えだそう!
立っていることさえしんどいはずなのに、おじさんは疲れた素ぶりをまったく見せず、エリオットとそのまま立ち話を始めました。こんな重労働を毎日続けながらも、心の明るさを絶やさないおじさんの謙虚な姿勢をみて、私たちの荷物の重さや旅のつらさなんてたいしたことがないように感じました。自分の娯楽のため炎天下のなか自転車を押し続けるのと、日々の仕事として同じ道を自転車で押し続けるのとでは、雲泥の差があるように思います。
自転車で旅をしていると、「なんてタフなんだ!」とか「自転車旅ってきついんでしょ?」と言われることがよくあります。ですが、路上でこんな人たちと出会ってしまったら、しんどいなどと弱音を吐いてはいられなくなります。路上で出会う地元の人々の笑顔ほど、私たちの背中を押してくれるものはありません。彼らは気づかぬうちに、私たちにたくさんのことを教えてくれます。